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専門家解説

脳卒中の栄養療法 -

NutritionalManagement

「脳卒中に栄養療法は必要ですか?」の質問に,自信をもって“NO”と答える医療従事者はいないであろう.その一方で,「では,脳卒中にはどんな栄養療法が必要ですか?」の質問に多くは回答に窮するが,それも当然である.そもそも,“栄養をもって脳卒中を治療する=栄養療法”という概念自体が,この領域にはきわめて希薄だったのである.従来,脳卒中の栄養管理というと,危険因子となる高血圧,糖尿病などに対しての塩分制限や脂質制限といった食事制限を求める食事指導が中心であり,病態,病期に応じた栄養管理の重要性が論じられることが少なかったのである.リハビリテーション領域では,エビデンスの蓄積により回復期での栄養状態が脳卒中の機能予後の独立因子とされている.回復期患者の多くに栄養障害が併存しており,

リハビリテーション効果も最大限に発揮されないのである.では,もともと健康体(むしろ肥満気味)であったはずの脳卒中患者がなぜ栄養障害に陥ってしまうのか? その一因に,急性期における栄養管理への認識不足が挙げられるのである.私自身,研修医時代からご作法的な中心静脈栄養管理や経管栄養を行うばかりで,気にすることは投与エネルギー量程度(それさえも十分とは言えなかったのだが)であった.

近年,“腸脳相関”が注目されている.腸管機能と中枢神経系は相互に密接に関連しており,中枢神経により腸管機能は調整され,逆に腸管機能は脳の機能にも影響を及ぼすのである.この腸管機能とは,単に消化にとどまらず免疫機能やメディエーターの産生も含まれ,その主役的な役割を果たすのが腸内細菌である.言い換えれば,腸内細菌は脳機能に大きな役割を果たしており,単にエネルギーを補給することが栄養管理ではなく,腸内細菌の機能が十分に発揮されるような栄養管理こそが,脳卒中に求められる栄養療法なのである.

本書は,脳卒中における急性期から回復期,それぞれの治療ステージに携わる医師をはじめ,看護師,管理栄養士,作業療法士など多職種におけるエキスパートの先生方とともにまとめさせていただいた.おそらく脳卒中における栄養療法をまとめた本邦初の書であり,臨床現場での活用や栄養知識のアップデートとして多職種の方々に手に取っていただきたいハンドブックである.本書により,栄養療法とともに脳卒中の機能予後改善に貢献できれば,望外の喜びである.

末筆ながら,本書の意義をご理解いただいたすべての分担執筆者の皆様,企画実現にご尽力いただいたネスレヘルスサイエンスカンパニー様,ならびに企画,編集に多大なるサポートをいただきました羊土社編集部の皆様には,この場を借りて深謝いたします.

2020年1月

山本拓史

目次

本コンテンツは書籍『脳卒中の栄養療法』(2020年2月発行/羊土社)を基に制作しており、掲載内容は書籍に記載された内容となります。