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専門家解説

栄養療法の基本 (1-1) -

NutritionalManagement-01

第1章 栄養療法の基本

出典元:書籍「脳卒中の栄養療法」/株式会社 羊土社

1.脳卒中診療における栄養療法の重要性( 山本 拓史 )

2.栄養管理の基礎知識( 宮澤 靖 )

3.腸管の役割( 佐治 直樹 )

4.脳卒中栄養療法におけるナーシングケア( 清水 孝宏 )

本コンテンツは書籍『脳卒中の栄養療法』(2020年2月発行/羊土社)を基に制作しており、掲載内容は書籍に記載された内容となります。

  • 栄養療法を治療手段の柱としてとらえ実践しよう
  • 絶食期間の短縮を念頭に,誤嚥を回避しつつ経腸栄養を開始する
  • 急性期の栄養状態が回復期でのリハビリテーションの効果に影響する
  • 急性期から回復期,維持期にむけシームレスな栄養療法を心掛ける

1-1 “栄養管理”ではなく“栄養療法”の必要性
~なぜ栄養療法が必要なのか?~

1) 脳卒中治療と栄養管理の変遷

脳卒中は,古くは“卒(突)然に邪気,邪風に中る(あたる)病”とされ,現代では脳梗塞,脳内出血,くも膜下出血の総称として脳血管障害とも呼ばれる.疾患の特徴上,多くの症例は動脈硬化性病変をはじめとする心・大血管病変や脳動脈瘤に関連するものであり,若年者よりも成人,特に中高年から老年期に発症する疾患群である.その症状はさまざまで,中枢神経系(脳)の障害により,一過性の神経症状から永続的な運動麻痺, 症例によっては重度の意識障害まできたすこともあり,その重症度も一律 ではなく,治療法もさまざまである.脳虚血性疾患には主に抗血栓薬が使 用され,脳内出血には薬物治療を中心に血圧管理を行い,時に血腫除去を目的とする外科的治療を行うこともある.くも膜下出血における急性期治療はさらに複雑であり,従来の開頭術や血管内治療による破裂動脈瘤への根治術に加え,脳血管攣縮を主とする遅発性脳虚血神経症状(delayed ischemic neurological deficits:DIND)への対策が多様化,高度化している.それ故,個々の病態に応じた適切な患者管理,治療が求められる時代 にあり,より高度な医療の提供が期待されている.

従来,脳卒中患者における栄養管理は急性期における全身管理の一環として行われており,エネルギーを投与するという処置そのものを“栄養管理”として,それを実践することに重きが置かれ,その方法や投与量,あるいは栄養成分などに言及されることは少なかった.脳卒中の栄養管理について書かれた成書もほとんど存在せず,また栄養管理の弊害について議論されることも少なかった.従来の多くの成書では,脳卒中急性期にみられる頭蓋内圧亢進や嚥下障害に伴う嘔吐や吐物による誤嚥性肺炎の弊害が強調され,経口摂取,経腸栄養の早期開始には慎重な記述が多い.特にくも膜下出血術後急性期には厳重な水分出納管理が求められることもあり,多くの施設で中心静脈からの高カロリー輸液にて栄養管理を行うことも経腸栄養の開始が遅延する一因となっていた.

近年,多くの医療機関で栄養サポートチーム(NST)活動が盛んになり,入院患者における栄養管理が注目されているが,脳卒中も例外ではない.急性期の病態に応じた栄養管理を行うこと(=栄養療法)により,単なる全身管理にとどまらず薬物治療や外科的治療による治療効果が高まることから,機能予後改善に向けた積極的な栄養管理を行うことが注目されている.また,脳卒中患者の多くは,急性期から回復期,維持期と数カ月,数年におよぶ治療期間を要することも少なくない.そのため,単に急性期の全身管理の一環ではなく,回復期,維持期における栄養状態を見越した栄養療法を実践することで,回復期におけるリハビリテーションの効果を高め,維持期におけるフレイルサイクルからのサルコペニア離脱を図ることなどが必要になる.これらの健康寿命延伸を見据えた包括的な栄養管理が“脳卒中栄養療法”であり,他の治療同様に確立した治療の1つとして実践することが重要である.