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とろっとゼリー開発者インタビュー -

とろっとゼリー開発者インタビュー

2022年に発売された「アイソカル とろっとゼリー」(コーヒー味/チョコレート味)は、かむ力が気になる高齢者にもうれしい新食感のパウチゼリーです。発売後すぐに医療・介護現場から注目を集める人気製品となりました。今回は「アイソカル とろっとゼリー」の開発にかかわった社員2名に対して、開発の意図や工夫した点、現場でのメリットなどについてお伺いしました。

今、世の中にないものを創る

なぜ「アイソカル とろっとゼリー」を開発しようと思ったのですか?

市場調査で浮き彫りになっていた市販のパウチゼリーに対する課題感や、社内で毎年実施している「新製品アイディアコンテスト」がきっかけです。そこから、パウチタイプで「アイソカル 100」のようなコンセプトの製品開発が始まりました。

「アイソカル 100」をパウチに詰め替えるだけではなく?

物性にもこだわりがあり、とろっとした製品にしたかったのです。市販のパウチゼリーは量が多くて飲み残しがあることと、むせの一因となる離水(ゼリーから水分が出ること)が課題ですので、200kcal/100mlで飲み残しにくく、物性に配慮した製品を新たに創れば、医療・介護現場のニーズに応えられると考えました。

市販のパウチゼリーは離水しやすい。
それって「離水しにくいものを作るのは難しい」ということですか?

実はそこが一番苦労したところです。当時、とろみ状の栄養補助食品は市場にほぼなかったので、「ないものを形にする」コンセプトを開発担当者にイメージしてもらうところから始めました。市販のパウチゼリーや、医療従事者の評価が高い水分補給系ゼリーを見せながら、目指したい物性について話し合いました。また、専門家として有名な先生方にもご協力を仰ぎ、かなり時間をかけて創り上げました。

今、世の中にないものを創れと言われると、本当にできるのかな、
そんなの難しいよって思いそうですが、開発の依頼を受けたときは正直どうでしたか?

第一印象は「おもろいの来たな」と思いました。液体でもないし、ゼリーでもない、その間のとろっとした物性を狙う。「それは難しいだろうな」という不安もありましたが、「どうやって実現していこうかな」という面白さもありました。僕自身は前向きに何でもトライする性格なので、これはもう手を動かすしかないと覚悟しました。

私にはどう進めたらいいのか全く見当が付きません。どんな風に開発を進めていったのですか?

「当たりを付ける」のが大切です。初めから完成品を作ろうとは思わずに、プロトタイプを作ることに全集中しました。まず広いところを埋めてから、細かい部分を詰めていくという感じです。今回は増粘剤で有名な原料メーカー複数社に声をかけて「こういうのを作りたいんだけど、どうすればいいんだろう?」と一緒に考えてもらいました。また、北口さんらマーケティング担当者やご監修の先生方に適宜サンプルやデータ(固さ、付着性、凝固性など)を示しながら開発を進めました。

実験室で100種類以上のサンプルを作った

プロトタイプができるまでの期間は予想通りでしたか?

思っていたより時間がかかりました。印象的な出来事としては、ユニバーサルデザインフードの基準を満たすサンプルが作れた段階で監修の先生方に見ていただいたときに、自分たちが思っていたのと逆のコメントが来たことです。僕らは水溶き片栗粉のようにとろーっとしているサンプルAの方がより多くの利用者様のお役に立てると思っていたのですが、先生方からは「ある程度まとまっていてコロっとしているサンプルBの方が食べやすい」というご指摘をいただきました。僕らが考えた「良いもの」は、現場のニーズとズレていたんですね。そのタイミングで軌道修正できて良かったです。

完成するまでにサンプルをいくつくらい作ったのですか?

実験室で作ったサンプルは100種類以上あったと思います。その中から可能性があるものを選定してマーケティング担当者に何度も試食してもらいました。そこからさらに選別したものを監修の先生方にお見せしてご意見を伺いました。

社内の試食会は10回以上行ったと思います。他の製品開発の1.5~2倍くらいの時間がかかりました。

監修の先生方には何回くらいお見せしたのですか?

プロトタイプを作るまでは3回ぐらいです。特に物性・テクスチャーと離水に着目し、現場で求められているものとズレないように調整していきました。その後もフレーバー決定や製品化に至るまでにマーケティング担当者が何度もサンプルを先生方にお持ちしてご評価をいただいています。

何度も見せていく中で、だんだん先生方のご評価が良くなっていきましたか?

初回で「ある程度いいところには来ている」という評価は得られました。しかし、そこからの微調整がとても難しかったのです。先生方がよく「この製品を飲んだ後に水を飲みたくなったらいけない」とおっしゃっていました。栄養補助食品ではむせにくくても、その後に水を飲んでむせたら意味がないですよね。また、先生方は「咽頭残留感」も重視していました。離水しないような物性に加え、 喉に残ってまとわりついたような感じがしないという条件を共存させるのが難しくて、時間がかかりました。

ネスレだからこその、風味へのこだわり

開発にあたって、特に大変だったことは何ですか?

離水対策とフレーバー(風味)付けですね。離水はむせにつながりますから、そのコントロールには気を遣いました。風味については、既存のパウチゼリーは酸っぱい風味が多かったので、もう少しまったりした感じのものにしたいと考えていました。

酸っぱい食べものって、むせやすいですよね。

そうなんですよ。酸っぱいものを食べるとむせやすいです。「アイソカル とろっとゼリー」は中性で調整しています。

離水のコントロールについてもう少し詳しく教えていただけますか?

一般家庭でも、ゼリーを常温で放置しておくと離水が増えますが、冷蔵庫に入れておくと離水が少ないことに気づかれると思います。増粘剤の種類や濃度、溶かす条件などによって離水のしやすさが変わってきますので、データを取って色々試しながら良いものを選んでいきます。複数のサンプルを同じ条件で比較したりして、対照実験のような形で選別していきました。

風味付けも苦労されたとのこと。そもそもコーヒー味とチョコレート味を選ばれた理由は何ですか?

そこはかなり悩んだのですが、最終的には「風味」と「プロモーション」の観点から決めました。 風味については、高齢者の嗜好ランキングや「アイソカル 100」の人気ランキングなどを参考にしました。

風味の選定には「物性に合うもの」が大前提です。とろっとしても違和感のないフレーバーを考える中でコーヒー風味やチョコレート風味が候補に挙がりました。北口さんからも「ぜひコーヒーとチョコの風味で!」という強い要望があったんですが、正直「難しいこと言うな」と思いました。

※写真はイメージであり、実際には使用しておりません。

コーヒーやチョコレート風味って難しいんですか?

もともと栄養補助食品として様々な栄養素が入っているわけです。普通のコーヒーやチョコとは全然ベースの味が違うところからそれに近づけていかないといけない。しかも、ネスレがコーヒーとチョコの会社なので、社員の舌が肥えてるんですよね(笑)。その要求レベルを満たすものを創り出すのがムチャクチャ難しかったです。

物性などの条件を満たすだけでも大変なのに、さらに風味の良さも要求されるんですね…。

結局、風味が良くないと食が進まない。それによって食べ残してしまうのを回避しないといけないと思います。メジャーなフレーバーであり、かつ多くの方が安心して食べていただけるもの、その共通項をどう探っていくのかが難しいところでした。

大量生産しても物性を損なわないための努力

プロトタイプができた後に製品に近づけていく工程が必要だと思いますが、
プロトタイプの生みの苦しみに比べたら少し余裕がありましたか?

それはそれで大変なんです。プロトタイプは実験室で作るのですが、その次は工場で作るフェーズ(商業生産)に移ります。実験室ではサンプルを1Lくらい作ればよかったものが、工場の製造ラインではタンクで5トンとか、サイズが非常に大きくなります。それをうまく操って同じものを作るのは大変難しいのです。

サイズが大きくなると物性に影響が出てしまうのですか?

影響を受けます。例えば家でゼリーを作るとしたら、お湯で寒天やゼラチンを溶かしますよね。そのお湯の温度や濃度によって、できるゼリーは全然違ってきます。それと同様に、実験室でうまくいった温度や濃度をそのまま工場に持っていくことはできないのです。

なるほど。実験室ならそんなに材料も手間もかからなそうですが、
工場で試しに生産するときはコストが高くつきそうなので気軽にできませんね?

そうなんです。実験室だったら少し失敗しても笑いごとで済むかもしれないですけれども、工場のサイズで間違ってしまうと、これはもう大きな責任問題になりかねません。ですから、失敗しないように工場での生産をどれだけイメージできるかが重要です。そのためには実験を繰り返して、これでいけるだろうという計画をデザインする必要があるんです。

それはもうドキドキしますね。今回は目標としていた試作回数と比べてどうでしたか?

余分な回数はやらずにぴったり終われました。こういう話はなかなか表には出ませんが、プロトタイプから商業生産へと持っていくのは開発者が苦労するところであり、やりがいのあるところです。

完成品を監修の先生方に試食いただいたときは、どのような反応でしたか?

先生方からの評価は非常に高かったです。さらっとしているわけでもなく、べたつくこともない、まとまりがあり、程よい物性に仕上がっているとご評価いただけました。風味に関してはデザート代わりに食べたい方にチョコレート味がぴったりで、コーヒー味は、程よい甘さで良いとご評価いただけました。私自身も「これまでになかった良いものができたな」と思っています。

製品の完成度と専門家からの高評価、営業担当者からの提案で採用が進んでいる

一度でも試していただければ、製品の良さを分かっていただけそうですね。

はい。営業担当者からの提案や、発売直後の大規模なキャンペーンの実施によって、全国の多くの施設でのご採用がかなり進んでいます。他の製品のサンプル請求数と比較すると1.5倍ぐらいの反響を得ています。

パウチタイプなら、小分けでも衛生的に食べてもらえそうですね。
他にもセールスポイントはありますか?

製品名にもこだわりました。とろみとゼリーの間をイメージできるように「アイソカル とろっとゼリー」という名前にしました。また、物性をイメージしてもらえるような動画や写真を入れたリーフレットづくりを意識しました。パッケージ裏面で残量が分かるようにしたのも、市販のパウチゼリーにはない差別化ポイントです。

動画では、本当にとろっとしているのがよく分かりますね。

実はこの動画を見ていただいて、サンプルが届く前にご注文いただいたこともありました。現物がないのに注文してくださるというのは、非常にプロモーションのしがいがありますね。

開発とマーケティング担当者の熱意が通じましたね。

監修者から高評価をいただけたのも大きかったです。リーフレットに先生のコメントを掲載できたことも、プロモーションに大きく寄与したと思います。

現場の手間を減らす

利用者さんだけでなく、スタッフ側のメリットもあるのでしょうか?

これまで医療や介護の現場では、市販のパウチゼリーを提供する前に振ったり、お皿の上でかき混ぜたりする手間がかかっていました。医療・介護従事者(特に看護師)の業務負担の軽減につながるという声をたくさんいただいています。ぜひ、利用者さん、医療従事者の皆様にお役立ていただきたいと思っております。

毎日・毎食、何人分もとろみ化して食べさせるのはとても煩雑な業務ですし、均一なとろみをつけるのは難しいことです。また、食事介助の際の様々なプレッシャーもあると思います。我々が物性をしっかりコントロールした製品をご活用いただくことによって、手間や煩雑さを軽減するとともに、品質としての均一性も担保できるのではないでしょうか。

これから医療現場に出ていく予定の私としても、手間が省けて品質の高い製品の活用に
積極的な施設で働きたいと思います。貴重なお話をいただき、ありがとうございました!