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専門家解説

これで完璧! 嚥下食~定義や分類、調理のポイント~ -

これで完璧! 嚥下食~定義や分類、調理のポイント~

嚥下食は、対象となる患者さん等の嚥下機能の程度に応じて、とろみや形態を調整する必要があります。とろみや形態には国内で統一された分類が設定されており、その分類を理解することで、安全な嚥下食を患者さん等に提供することができます。
本コンテンツでは、嚥下食について国内で用いられている分類、提供する際のポイント、調理する際のポイントについて解説します。

監修者からのメッセージ

県立広島大学 地域創生学部 教授 栢下 淳先生
口から食事を食べることは栄養補給の手段であるとともに、生活する上での楽しみともなるものです。嚥下食においても、安全に嚥下できる形態、栄養価、おいしさは重要な要素です。
最近では、とろみをつけるためのとろみ調整食品、形態をゼリー状にするための食品、栄養価をアップさせるための食品など、嚥下機能が低下した患者さんの食事を豊かにするための製品が数多く販売されています。
それらを活用しておいしく安全な嚥下食を提供するとともに、本コンテンツで嚥下食の分類や提供する際のポイント、調理のポイントを学習しましょう。

目次

嚥下食とは

「嚥下食」とは、嚥下機能の低下の程度に応じて、とろみや形態を調整した食事のことです。日本摂食嚥下リハビリテーション学会では、嚥下食を「嚥下調整食」、嚥下訓練に使用する食品を「嚥下訓練食品」と呼んでいます1)
嚥下食は、嚥下機能が低下した患者さんに、安全に、おいしく食事をしていただくことを目的としています。しかし嚥下食は水分含有量が多いため、通常の食事に比べて栄養価が低いというデメリットがあります2)。そのため、低栄養とならないように、栄養価を高める工夫が必要となります。

嚥下障害とは

嚥下障害とは、「食べ物や飲み物をうまく飲み込めない状態」のことです3)。症状としては、食事中のむせや咳・痰、飲み込みづらい感覚、食後の咳や声の変化、口内に食物が残るなどがあります4)
嚥下に関わる以下の5つのプロセスのうち、どこかに障害が起きていると、嚥下障害となります。

  • <1>先行期
    視覚や匂いで食べ物を認識し、口へ運ぶことです。食べ物の硬さや形状から、一口の量を判断します。
  • <2>準備期
    あご、舌、ほお、歯を協働させ、食べ物をかみ砕いて唾液と混和し、飲み込みやすいかたまり(食塊)を形成することです。
  • <3>口腔期(嚥下第1期)
    舌で食塊を口の奥に送り込むことです。このとき、軟口蓋が鼻腔との通り道を遮断します。
  • <4>咽頭期(嚥下第2期)
    嚥下反射により、食塊が咽頭から食道に送り込まれることです。声門を閉じて誤嚥を防止します。
  • <5>食道期(嚥下第3期)
    食道に入った食塊が胃に運ばれることです。食道入口の筋肉が収縮して、食塊の逆流を防ぎます。

嚥下食の分類

従来、日本では嚥下食の分類に関する統一された基準は存在せず、地域や施設でそれぞれの基準が用いられていたため、施設連携や地域連携の関係者にとっては不便な状況でした。
そこで2013年に日本摂食嚥下リハビリテーション学会が示したのが、「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013」(以下、「学会分類」)です。これは国内の医療機関や在宅医療および福祉関係者が共通して使用することを目的に、食事ととろみについて段階的に分類を示したものです5)。この分類は2021年に改訂され、現在では学会分類2021が広く用いられています。
なお嚥下食には、学会分類以外にも、厚生労働省や農林水産省が策定したもの、また嚥下障害の小児を対象にしたものなど、既存のさまざまな分類があります。

<その他の嚥下食の分類>
①嚥下食ピラミッド
②特別用途食品(えん下困難者用食品)
③ユニバーサルデザインフード(UDF)
④スマイルケア食
⑤発達期摂食嚥下障害児(者)のための嚥下調整食分類2018 等

学会分類ではこれら①~③との対応表が示されております。
①~③の各分類について、詳しくは「他分類との対応」をご覧ください。

学会分類2021(食事)1)

学会分類2021(食事)では、共通認識を得やすいように、ピューレやペーストといった食形態の名称ではなく、コード番号で分類を行っています。
コードは0~4の5段階となっており、コード0ついてはjとtという分類が設定されています。jはゼリー(jelly)、tはとろみ(thickness)を示します。またコード2については、不均質さによって2-1と2-2という細分類が設定されています。
ここでは、各コードの主な特徴や必要とされる嚥下能力について紹介しています。適用上の注意事項など詳しくは、日本摂食嚥下リハビリテーション学会のWebサイトで公開されている「嚥下調整食学会分類2021」をご参照ください。

文献1)より作成

コード 0j(嚥下訓練食品 0j)

  • 特徴
    均質で、付着性が低く、凝集性が高く、やわらかく離水の少ないゼリーが該当する。容易にスライス状にすくうことができ、すくった時点で適切な食塊が形成される。
  • 必要な条件
    ・咀嚼に関連する能力を必要とせず、そのまま丸呑みが可能
    ・容易に嚥下できるやわらかい物性
  • その他
    ・嚥下造影検査や内視鏡検査の際の検査食として推奨される
    ・誤嚥したときの組織反応や感染に対する配慮から、たんぱく質の含有量は少ないことが望ましい
    ・市販の嚥下訓練用ゼリー、物性に配慮したお茶ゼリーや果汁ゼリーが該当する
  • 他分類との対応
    嚥下食ピラミッドL0、えん下困難者用食品許可基準Ⅰ

コード 0t(嚥下訓練食品 0t)

  • 特徴
    均質、付着性が低く、凝集性が高く、適切な粘度のとろみ形態の食品。嚥下可能な食塊の範囲が限られている人にも適用できる。
  • 必要な条件
    ・咀嚼に関連する運動をせず、そのまま丸呑みが可能
  • その他
    ・嚥下造影検査や内視鏡検査の際の検査食として推奨される
    ・誤嚥したときの感染に対する配慮から、たんぱく質の含有量は少ないことが望ましい
    ・お茶や果汁に中間あるいは濃いとろみをつけたものが該当する
  • 他分類との対応
    嚥下食ピラミッドL3 の一部(とろみ水)

コード 1j(嚥下調整食 1j)

  • 特徴
    均質でなめらか、離水の少ないゼリー・プリン・ムース状の食品。スプーンですくった時点で適切な食塊を形成する。
  • 必要な条件
    ・咀嚼に関連する能力は不要
    ・咽頭通過に適した物性
  • その他
    ・たんぱく質含有量の条件はない。
    ・介護食として市販されているゼリーやムースが該当する
  • 他分類との対応
    嚥下食ピラミッドL1・L2、えん下困難者用食品許可基準Ⅱ、UDF区分:かまなくてもよい(ゼリー状)

コード 2(嚥下調整食 2)(コード2-1およびコード2-2)

  • 特徴
    スプーンですくい、かつ口腔内で簡単な動作をすることで適切な食塊が形成できる。咽頭へ送り込む際に、意識して口蓋に舌を押し付ける必要がある。なめらかで均質なものはコード2-1、不均質(やわらかい粒などを含む)なものはコード2-2に該当する。
  • 必要な条件
    ・口腔内のものを広げずに送り込むような能力があり、若干の付着性の幅に対応可能な程度の嚥下機能
  • その他
    ・たんぱく質含有量の条件はない。
    ・とろみ付けしたおもゆ、付着性が高くならないように処理したミキサー粥が該当する
  • 他分類との対応
    嚥下食ピラミッドL3、えん下困難者用食品許可基準Ⅲ、UDF区分:かまなくてもよい

コード 3(嚥下調整食 3)

  • 特徴
    形はあるが歯や補綴物がなくても押しつぶすことができ、容易に食塊を形成できる。口腔内で多量の離水がなく、一定の凝集性があって咽頭通過時にばらけにくいもの。
  • 必要な条件
    ・舌と口蓋間の押しつぶしが可能で、つぶしたものを再びある程度まとめて食塊を形成し、舌で搬送する能力のある状態
    ・コード2よりも物性の幅が広い
  • その他
    ・ソフト食ややわらか食といわれるものが該当する。五分粥や全粥、やわらかく仕上げた卵料理、あんかけをしたやわらかい野菜の煮物など。
  • 他分類との対応
    嚥下食ピラミッドL4、UDF区分:舌でつぶせる

コード 4(嚥下調整食 4)

  • 特徴
    嚥下機能・咀嚼機能が軽度低下した人を想定して素材と調理方法を選択したもの。かたすぎず、ばらけにくく貼りつきにくいもので、箸やスプーンで切れるやわらかさ。
  • 必要な条件
    ・歯槽堤間での押しつぶしが可能である
  • その他
    ・軟菜食、移行食といわれるものが該当する。全粥や軟飯、素材に配慮した煮込み料理や卵料理、あんかけにして付着性やばらつきやすさに配慮したものなど。
  • 他分類との対応
    嚥下食ピラミッドL4、UDF区分:舌でつぶせる、および歯ぐきでつぶせる、および容易にかめるの一部
文献1)より作成

本表は学会分類 2021(食事)の早見表です。
本表を使用するにあたっては必ず「嚥下調整食学会分類 2021」の本文をお読みください。
*上記 0t の「中間のとろみ・濃いとろみ」については、学会分類 2021(とろみ)を参照ください。
本表に該当する食事において、汁物を含む水分には原則とろみを付けます。
ただし、個別に水分の嚥下評価を行ってとろみ付けが不要と判断された場合には、とろみは不要です。
他の分類との対応については、学会分類 2021 との整合性や相互の対応が完全に一致するわけではありません。

学会分類2021(とろみ)1)

学会分類2021(とろみ)は、液体のとろみの程度によって薄いとろみ、中間のとろみ、濃いとろみの3段階に分けて表示しています。この分類に当てはまらない、濃すぎるまたは薄すぎるとろみは推奨されません。
各段階については、性状に関する説明に加えて、粘度計で測定した粘度やラインスプレッドテスト(Line Spread Test; LST)の値、シリンジ法による残留量が示されています。
ここでは、各段階の主な特徴や対象となる嚥下能力について、まず初めにとろみの基本と考えられる中間のとろみ、続いて薄いとろみ、濃いとろみの順に紹介します。適用上の注意事項など詳しくは、日本摂食嚥下リハビリテーション学会のWebサイトで公開されている「嚥下調整食学会分類2021」をご参照ください。

段階2 中間のとろみ

  • とろみの程度
    嚥下障害の方に試される基本のとろみである。とろみを感じつつも「drink」するという表現が適切な程度のとろみで、口腔内ですぐには広がらず、舌の上でまとめやすい。
  • 特徴
    スプーンで混ぜると表面に少しだけ混ぜた跡が残る。フォークですくうことはできない。
  • その他
    ・嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査で用いるとろみ付き液体として、用意しておくことが推奨される。
    ・嚥下訓練食の0tとして活用できる。

段階1 薄いとろみ

  • とろみの程度
    中間のとろみほどのとろみでなくても誤嚥しない症例(嚥下障害がより軽度の症例)を対象としたとろみである。とろみを感じつつも「drink」するという表現が適切な程度のとろみで、口腔内で広がり、飲み込む際には大きな力を要しない。
  • 特徴
    コップから容易に移し替えできる。
  • その他
    ・嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査で用いるとろみ付き液体として、用意しておくことが推奨される。
    ・とろみの程度が軽いため、コンプライアンスに優れる。

段階3 濃いとろみ

  • とろみの程度
    重度の嚥下障害を想定したとろみである。明らかなとろみがあり、「eat」するという表現が適切で、口腔内でのまとまりやよく、咽頭に送り込む際に力を要する。
  • 特徴
    コップを傾けてもすぐには落ちてこない。フォークの歯でも少しはすくえる。
  • その他
    ・嚥下訓練食の0tとして活用できる。
    ・嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査で用いるとろみ付き液体として、基本的に用意しておくことが推奨される。
文献1)より作成

本表は学会分類 2021(とろみ)の早見表です。
本表を使用するにあたっては必ず「嚥下調整食学会分類 2021」の本文をお読みください。
粘度:コーンプレート型回転粘度計を用い、測定温度 20℃、ずり速度 50 s-1 における 1 分後の粘度測定結果。
LST 値:ラインスプレッドテスト用プラスチック測定板を用いて内径 30 mm の金属製リングに試料を 20 ml 注入し、30 秒後にリングを持ち上げ、30 秒後に試料の広がり距離を 6 点測定し、その平均値を LST 値とする。
注 1.LST 値と粘度は完全には相関しない。そのため、特に境界値付近においては注意が必要である。
注 2.ニュートン流体では LST 値が高く出る傾向があるため注意が必要である。
注 3.10 ml のシリンジ筒を用い、粘度測定したい液体を 10 ml まで入れ、10 秒間自然落下させた後のシリンジ内の残留量である。

他分類との対応

学会分類2021は、より分類に対する理解を深めるためとして、既存の嚥下食の他分類との対応を示しています。完全に互換性のあるものではありませんが、嚥下食の性質をより詳しく知るために、ぜひ理解しておきたい情報です。

文献1)より作成

嚥下食ピラミッド

2004年に発表された分類で、レベル0(開始食)、レベル1~3の嚥下食、レベル4の介護食、レベル5の普通食の6段階を採用しています6)
硬さ、凝集性、付着性といった物性の測定値が明記されていることが特徴ですが、測定条件は後出の特別用途食品(えん下困難者用食品)とは異なります。

特別用途食品(えん下困難者用食品)

2009年に厚生労働省が策定した分類で、現在では消費者庁が管轄となっています。硬さ、付着性、凝集性といった物性測定値によって許可基準Ⅰ、Ⅱ、Ⅲに分類されていますが、測定条件は嚥下食ピラミッドとは異なっています。
許可基準Ⅰはゼリー状などの均質なもの、基準Ⅱは基準Ⅰを除くゼリー・ムース状の均質なもの、基準Ⅲは食塊を形成しやすいお粥、ペースト状のものやゼリー寄せなどの不均質な食品を指します6)

※特別の用途があるものとして消費者庁長官の許可を受け、その旨が表示された食品7)

消費者庁:特別用途食品の表示許可基準(令和元年9月9日 消食表第 296号) より作成

ユニバーサルデザインフード(UDF)

2002年に日本介護食品協議会が作成した分類で、「容易にかめる」「歯ぐきでつぶせる」「舌でつぶせる」「かまなくてよい」の4つの区分に分けて、食品の硬さや必要な嚥下機能の目安を示しています。 とろみの段階についても表示を統一していますが、学会分類2021(とろみ)とは基準が異なります6)

文献8)より作成

嚥下食を調理する際のポイント

食は栄養補給の重要な手段であると同時に、生活する上での楽しみでもあります。
そのため嚥下食も、安全であることはもちろんですが、おいしく、また適切な栄養を補給できるものであることが望まれます。
また食品の種類や形態によって嚥下のしやすさは異なりますので、嚥下食を調理する際は食品の特徴にも配慮することが重要です。

嚥下しやすい食品

嚥下しやすい食べ物の条件として、以下が挙げられます10)

  1. 食材の密度が均一である
  2. 適度な粘度と凝集性がある
  3. 可動性・流動性がある
  4. 口腔の粘膜や咽頭に付着しづらい

ほかに、冷たい/温かいがはっきりしたもの、味がはっきりしたものも食べやすいとされています11)
具体的な例としては、ゼリー・ムース・プリン類、卵豆腐、具のない茶碗蒸し、まぐろのたたき、根菜を柔らかく煮たもの、水ようかんなどがあります。
これ以外の肉類や魚類は、患者さんの嚥下機能に応じて調理し、安全に飲み込める形態にすることで提供することができます。

嚥下しにくい食品

嚥下しにくい食べ物の条件として、以下が挙げられます10, 11)

  1. さらさらした液体:水やお茶、汁物、ジュースなど
  2. 水分が少なくパサパサしたもの:パン、高野豆腐、ふかしいも、焼魚など
  3. 口腔内でバラバラになりまとまりにくいもの:クッキー、きざみ食、固ゆで卵など
  4. 硬くてかみ砕きにくいもの:たけのこ、れんこん、いか、たこなど
  5. 口腔内や咽頭に貼り付きやすいもの:海苔、わかめ、青菜類、餅など
  6. 酸味が強いもの:酢の物、かんきつ類など
  7. 噛みづらいもの:こんにゃく、なめこ、かまぼこなど
  8. 粒が残るもの:ピーナッツ、枝豆など
  9. 繊維質のもの:ごぼう、ふきなど

これらの食品の中には、あんかけにしたりピューレ状にするなど調理時に工夫することで、安全に提供できるようになるものもあります。

嚥下食の調理方法

安全に嚥下でき、さらにおいしい嚥下食を作るためのポイントをご紹介します10, 12)

形態についてのポイント

  • とろみをつける
    サラサラした液状のものは、片栗粉、とろみ調整食品を利用して適度な粘度を与えることで、口腔内でのまとまりがよくなり、飲み込みやすくなります。
    片栗粉は熱することでとろみがつきますが、とろみ調整食品では加熱は不要です。とろみをつける素材によってそれぞれ違いがあります。メニューや嚥下機能に合わせ、適切なもの適量を使いましょう。
  • ゼリー状にする
    ジュースやお茶、スポーツ飲料などをゼラチンやゲル化剤でゼリー状にすることで、嚥下しやすく、またデザートなど食べる楽しみとすることができます。またまとまりづらいきざみ食などをゼリー寄せにすることで、嚥下しやすくなります。ゼラチンは口腔内保持時間が長い人では、口腔内で融解してしまいますので、ゲル化剤を使用しましょう。
  • 食材の大きさ・柔らかさを均一にする
    ミキサーやフードカッター、裏ごし器などを活用して料理を均一にすることで、嚥下しやすくなります。フルーツや野菜のピューレなどの他に、出来上がった料理をミキサーにかけてポタージュ状にすることもあります。ただし料理をそのままポタージュ状にすると見た目が悪くなることがあるので、食材ごとにミキサーにかけるなどの工夫をするとよいでしょう。また、野菜や果物が多く含まれる場合には、調理の際に水分が多量に素材から出てきます。水分が多い場合には、とろみ調整食品などを加えて、粘度を調整してください。

味や温度についてのポイント

酸味の強いものはむせやすいため、酢の物にはだし汁や甘みを加えて、酸味を和らげるとよいでしょう。ゆずや三つ葉、ゴマなど香りのよい食材は、食欲をそそることがあります。
また温かいものは温かく、冷たいものは冷たくして提供することで、おいしく食べてもらうことができます。

メニュー・盛り付けについてのポイント

視覚や嗅覚、触覚などを刺激することで、食事を楽しんでもらうことができます。彩りのよい野菜をトッピングにしたり、食器と料理のバランスを考えたりするなどの工夫ができます。

栄養についてのポイント13)

嚥下食を作成する場合、水分を加えることが多いため、普通食よりも容量が増えてしまい、食事で摂取できる栄養価が低くなってしまいます。卵・乳製品などたんぱく質豊富な食材を積極的に使う、中鎖脂肪酸(MCT)などエネルギー価の高いものを添加する、それでも不足する場合には、市販の栄養補助食品を活用するなどの工夫が必要です。

食事介助のポイント

患者さんが安全に食事をするためだけでなく、食事を楽しんでもらうためにも、介助者の工夫は重要です。
食事介助の際は、以下のようなポイントに留意しましょう6, 11, 14, 15)

  • 意識状態
    覚醒していて、食事することを認知できることが望ましい状態です(前述の先行期を参照)。
  • 口腔環境
    清潔で適度に潤っているのが望ましい状態です。口腔内の細菌は、誤嚥性肺炎を引き起こす可能性がありますので、食事前に口腔内をきれいにしておくことが望ましいです。
  • 環境
    テレビやラジオは消して、食事に集中できるような環境を整えましょう。
    またむやみに患者さんに話しかけないようにしましょう。返答するために口を開いて声門が開くことで、誤嚥のリスクが高まります。
  • 姿勢
    机や椅子の高さ、クッション類を調整して、各人の嚥下機能に応じて安全に嚥下できる姿勢を保持しましょう。テーブルの高さはへそと脇の下の間、体との距離は剣状突起から握りこぶし一つ分程度がよいでしょう。
    一般的に、フラットに近いリクライニング位は誤嚥しづらい体位であるとされています11)
  • 1口量
    適切な量は個人によって異なるので、嚥下機能評価を行った上でその人に合った量を決定するとよいでしょう。特に、多くの量を一度に食べさせるのは誤嚥のリスクが上がります。
  • 代償嚥下法
    必要に応じて、複数回嚥下(一口につき複数回嚥下を行うこと)や交互嚥下(固形物と流動物を交互に嚥下すること)、息こらえ嚥下法(息をこらえた状態で食物を強く飲み込む方法)などを活用しましょう。
  • 介助者の位置
    患者さんの目線が上がるとあごも上がって誤嚥リスクが高まるため、介助者は患者と同じ目線まで姿勢を落としましょう。右側から介助する場合は右手、左側から介助する場合は左手を使って介助するようにします。

嚥下食のレシピ

学会分類2021(食事)のコード別に、主食となるお粥のレシピをご紹介します。
コードごとの性状や形態の参考としてください。
主菜や副菜、デザートについては、書籍やインターネット等で豊富なレシピが公開されていますので、活用するとメニューの幅が広がります。

  • コード1j:粒のないお粥ゼリー
    全粥に、市販のゲル化剤などを指定の量加え、ミキサーで十分に攪拌します。冷蔵庫などで冷やしゼリー状にします。
  • コード2-1:お粥ゼリー
    全粥をミキサーで十分に撹拌します。撹拌時に市販のとろみ調整食品などを加え、粘度調整します。
  • コード2-2:少し粒の残ったミキサー粥
    全粥を粒がやや残る程度にミキサーで攪拌します。撹拌時にとろみ調整食品などを加え粘度調整します。
  • コード3:全粥
    舌と口蓋間で押しつぶしが可能な全粥です。離水が多い場合には、とろみ調整食品などで離水を少なく調整します。
  • コード4:全粥、軟飯
    歯槽堤間での押しつぶしが可能な全粥、軟飯です。

まとめ

嚥下食は、嚥下機能障害のある人に提供することを目的に、とろみや形態を調整した食事です。国内での分類として日本摂食嚥下リハビリテーション学会が臨床現場では広く活用され、嚥下障害の程度に応じた各段階の嚥下食の条件がわかるようになっています。
嚥下食は柔らかく仕上げるため加水するため、一般的には栄養価が低いというデメリットがあり、栄養補助食品や栄養価の高い食材を活用するなど、対象者が低栄養とならないための工夫が必要です。
とろみや形態だけでなく、見た目の彩りや季節感にも配慮し、また介助の際も誤嚥を防ぐためのポイントを確認して、対象者に安全に、楽しく食事していただくことが大切です。

引用文献
  1. 栢下淳ほか:日摂食嚥下リハ会誌. 2021;25(2):135–49.
  2. 山本拓史偏:脳卒中の栄養療法, 羊土社, 2020, p212.
  3. 日本歯科医師会:嚥下障害(のみ込みの障害)
    https://www.jda.or.jp/park/trouble/index07_03.html(2023年3月10日閲覧)
  4. 藤島一郎:Jpn J Rehabil Med. 2013;50(3):202-11.
  5. 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会:日摂食嚥下リハ会誌. 2013;17(3):255–67.
  6. 上羽瑠美:MB ENT. 2020;252:31-9.
  7. 消費者庁:特別用途食品について
    https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_for_special_dietary_uses/(2023年3月10日閲覧)
  8. 日本介護食品協議会:ユニバーサルデザインフードとは
    https://www.udf.jp/outline/udf.html(2023年3月10日閲覧)
  9. 農林水産省:スマイルケア食(新しい介護食品)
    https://www.maff.go.jp/j/shokusan/seizo/kaigo.html(2023年3月10日閲覧)
  10. 奥野麻美子ほか:IRYO. 2007;61(2):109-13.
  11. 藤島一郎監修:経口摂取移行ハンドブック 第3版, ネスレ日本株式会社/ネスレ ヘルスサイエンス カンパニー, 2017年2月
  12. 東海嚥下食研究会調理師部会:臨床栄養.2019:135(6):742-6.
  13. 若林秀隆ほか編:「攻めの栄養療法」実践マニュアル, 中外医学社, 2019, p189.
  14. 西川明美:BRAIN NURSING. 2022:38(6):794-5.
  15. 小山珠美:治療. 2022;104(3):265-72.
参考文献
栢下淳ほか:日摂食嚥下リハ会誌. 2021;25(2):135–49.
食べるを支える会:食べるを支える(嚥下調整食レシピ)
https://shokushien.net/recipe/(2023年3月10日閲覧)