食物繊維「グアーガム分解物(PHGG)」の有用性

経管栄養の合併症のなかでも、下痢や便秘は医療・介護従事者にとって大きな悩みのタネとなっているようです。医療者の負担が増えるだけでなく、患者さんにとって不快な症状でありQOLを低下させる要因にもなるため、適切な対策を実施することが望まれます。
下痢・便秘対策の一つとして、臨床現場で注目されている水溶性食物繊維「グアーガム分解物(PHGG)」があります。ここでは、PHGGの特徴や生理作用、下痢や便秘への有用性を示す報告などについて、さっと学べるように大事なポイントをまとめました。
経管栄養による下痢や便秘に悩まされる患者・医療者
食物繊維の一種であるグアーガム分解物(PHGG)とは
臨床現場で注目が集まる、PHGGの生理作用
PHGGの特徴①:高発酵性で生理作用の高い酪酸を多く産生する
PHGGの特徴②:臨床的有用性について高い評価を受けている
PHGGの特徴③:下痢・便秘に関する臨床現場からの報告
PHGG関連コンテンツのご紹介
経管栄養による下痢や便秘に悩まされる患者・医療者
適切な栄養補給は健康を維持するための基本です。栄養障害が進行すると、組織・臓器の機能不全、創傷治癒遅延、感染性合併症の発生、原疾患の治療障害や悪化が懸念されます。そのため、口から食べられない、あるいは経口摂取のみでは必要な栄養量を摂取できない場合には、経管栄養法による栄養補給が選択されます1)。
しかし、経管栄養の実施に際しては様々な合併症が起こり得ます。医師と看護師を対象に経管栄養における困りごとを調査したところ、医師・看護師ともに最も多く挙げられたのは「下痢」でした(図1)。また、看護師では下痢に次いで「便秘」にも悩んでいました。

図1 経管栄養における困りごと(医師、看護師)
下痢や便秘、すなわち排便障害は、患者さんにも医療者にも多大な負担を及ぼします(図2)。よくあるのが、便秘に対して下剤を使用したところ、水様便になったので下剤を中止すると、また便秘になる…という負のサイクルが繰り返されることです。患者さんは嘔吐や皮膚トラブル、腹部膨満感、気分の低下などに悩まされますし、医療者にとっては浣腸などのケアの増加、治療・介護計画への影響、下痢の後片付けなどの負担がかかります。

経管栄養は適切な栄養補給を行って健康を維持するために必要です。ならば、いかに下痢や便秘などの合併症を減らし、患者さんや医療者の負担を軽くするかを検討すべきではないでしょうか。
食物繊維の一種であるグアーガム分解物(PHGG)とは
排便障害(下痢、便秘)に対しては様々な対応法が知られており、食物繊維の十分な摂取もその一つです。食物繊維は水溶性・不溶性で分けることが多いですが、腸内細菌による発酵性、水への分散性・溶解性、嵩(かさ)、粘性、吸着・結合性という切り口でも区分することができます。
食物繊維としての特性を活かし、排便障害に対する作用が期待できる成分の一つに、グアーガム分解物(PHGG:Partially Hydrolyzed Guar Gum)があります(図3)。

PHGGは、インド・パキスタン地方で栽培されている豆科植物(えんどう豆の一種)であるグアー豆の種子胚乳部分から取れるグアーガムを加水分解したものです。グアーガムは分子量が約20~30万と大きく、粘度が高いので、とろみ剤やゲル化剤などとして広く用いられています。このグアーガムを酵素分解し、分子量を2~3万にして粘度を低下させ、食品加工性を向上させたものがPHGGです。
臨床現場で注目が集まる、PHGGの生理作用
食物繊維のなかでもPHGGは、その生理作用から臨床現場で注目されています(図4)。
PHGGは水溶性食物繊維であり、水との親和性が高いので、便の水分量を維持して、便が固くなりすぎないようにコントロールするという働きがあります。そのため、下痢・便秘対策としても使用されています。
また、PHGGは腸内での糖質の拡散を減らすことで小腸からの糖質吸収率を下げ2)、食後血糖値の上昇を抑制するという作用もあります3)。

さらに、PHGGにはプレバイオティクス(大腸内の特定の細菌の増殖および活性を選択的に変化させることより、宿主に有利な影響を与え、宿主の健康を改善する難消化性食品成分)4)としての作用も持ち合わせています。
PHGGは腸内細菌の分解(発酵)を受け、酪酸などの短鎖脂肪酸(SCFA:Short Chain Fatty Acid)を産生します。SCFAは腸内を弱酸性にし、乳酸菌などのいわゆる善玉菌が増えやすい環境に整えます。また、SCFAは大腸の上皮細胞のエネルギー源となり、腸の働きを維持することが期待できます(図5)。

PHGGの特徴①:高発酵性で生理作用の高い酪酸を多く産生する
PHGGは食物繊維の中でもプレバイオティクス作用が優れている成分のひとつです。
図6に主な食物繊維の発酵性別の区分を示します。PHGGは高発酵性(腸内細菌による資化率が75%以上)の食物繊維に分類されています。発酵性が高いほどSCFAの産生量が増えるため、PHGGは腸内でより多くのSCFAを生み出す成分であると言えます。

また、腸内細菌が産生し、大腸上皮細胞のエネルギー源となるSCFAにはいくつかの種類があります。代表的なものは酢酸(さくさん)、プロピオン酸、酪酸(らくさん)です。この3つのうち、一般的に産生量が多いのは酢酸です。一方、酪酸は産生量が少ないですが、大腸上皮細胞の吸収率が最も高く、生理作用が強いと言われています(図7)。

PHGGは生理作用が強い酪酸の産生量が多いことでも知られています。一般的な流動食に使用される難消化性デキストリンと比較すると、PHGGの酪酸産生量はその約2倍にのぼります(図8)。

実際に、PHGGを含む流動食を使用すると、便中に含まれるSCFAの比率が高まる傾向があることが示されています(図9)。

腸内環境を整える作用が期待されるSCFA、特に大腸のエネルギー源となりやすい酪酸を効率的に摂りたいときに、発酵による酪酸の産生量が多いPHGGは有効な選択肢になるのではないでしょうか。
PHGGの特徴②:臨床的有用性について高い評価を受けている
PHGGは、学術的にも高い評価を受けています。
欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)のコンセンサス会議において、ICUや周術期、長期経腸栄養管理中の慢性の病態で発生する下痢症について、PHGGはエビデンスレベルI、推奨グレードAの評価を得ました(図10)。これは、信頼性の高いエビデンスに基づき、臨床的有用性が認められたために、最も推奨度が高いと判定されたということです。なお、この領域でグレードA評価を得たのはPHGGのみです。

PHGGの特徴③:下痢・便秘に関する臨床現場のエビデンス
ここからは、臨床現場でPHGGを実際に使用した際の有用性を示した研究結果をいくつかご紹介いたします。
ドイツで行われた臨床試験では、外科・内科的治療を受けた100名(完全経管栄養30名、経口+経鼻併用70名)を無作為に2群に分け、PHGGを最低5日間投与しました。
その結果、PHGGを含まない通常の流動食を投与されていた50名では15名に下痢が起きましたが、PHGGを付加した50名のうち、下痢が発生したのは6名でした。また、完全経管栄養30名を対象に経管栄養の中断率を確認したところ、PHGGを含まない通常の流動食だった15名中4名が中断に至りましたが、PHGGを付加した15名の中に中断者はいませんでした(図11)。
このことから、PHGG含有流動食の摂取により、下痢の発生率や経腸栄養中断率を低下させることが期待されます。

次に、日本で行われた臨床試験をご紹介します。長期経管栄養を受けている患者で、整腸剤などを使用しても下痢が続く症例や、下剤や浣腸などで対応しても硬便な症例、緩下剤により多量の下痢となる症例など、排便コントロールに難渋している17名を対象として、PHGGを2.2%配合した流動食を1か月にわたり投与しました。
その結果、排便指数(1日の排便回数×ブリストルスケール)が4以上の下痢症例において排便回数は統計学的に有意に減少し、排便指数も有意に改善がみられました(図12)。

また、介護施設に入所している精神疾患や身体的障害の入所者を対象に、9か月にわたってPHGGを経口摂取していただいたところ、浣腸の使用回数が有意に低下したという海外の報告もあります(図13)。

最後にもう一つ、日本で行われた研究をお示しします。日常生活のほとんどをベッド上で過ごし、薬剤を併用して排便コントロールが行われていることが多い患者さんに対して、PHGG含有流動食の導入、排便日誌の記載とそれに基づく排便コントロールチームの介入を行いました。その結果、約7割の患者さんで排便を促す薬剤の使用量が減り、便の性状も改善しました。また、1か月のおむつ使用枚数についても減少傾向がみられました(図14)。

ここまでお示ししたように、PHGGは経管栄養中の患者さんに対して、下痢の発生率や経管栄養の中断率を減らしたり、排便回数や便性状を改善したり、下剤やおむつなどの使用量を減らすという報告が臨床現場から実際に出てきています。
経管栄養中の下痢や便秘でお困りの患者・利用者さんと医療・介護従事者双方にとって、PHGG摂取という簡便な方法で不快な症状やケアの負担を減らすことができたなら、お互いにもっと笑顔が増えるのではないでしょうか。
関連コンテンツのご紹介
その他のPHGG学術情報
WEBセミナー動画
- 参考文献
-
- 日本静脈経腸栄養学会(編):静脈経腸栄養ガイドライン, 第3版
- M Tokunaga, et al: Effect of partially hydrolyzed guar gum on postprandial hyperglycemia
-A randomized double-blind, placebo-controlled crossover-study-Jpn Pharmacol Ther 2016; 44(1): 85-91. - T Takahashi, et al: Hydrolyzed guar gum decreases postprandial blood glucose and glucose absorption in the rat small intestine. Nutr Res 2009; 29(6): 419-25.
- 腸内細菌学会:プレバイオティクス(prebiotics), 用語集
https://bifidus-fund.jp/keyword/kw022.shtml(2022年5月6日閲覧)